上司から物理法則を無視した仕事を投げられたので、そのまま打ち返した話

投げられた剛速球の仕事

突然ですが、私は某IT企業でシステムエンジニアとして働いていました。SIerってやつ。要するに下請けです。大手だったけど、大手といえども下請けです。社員は人材という名の歯車さ!

そんな中、数年目の私はあるシステムを作るプロジェクトに配属され、1年ほど過ごしていました。ぶっちゃけ体調はボロボロに崩れつつありました。体調不良で有給は使い果たしてヘロヘロ、欠勤ギリギリのライン。そんな中、上司からこんな指示が飛んできました。

上司「このシステムのテスト、3日でやって」

歯車「はい」

人材という名の歯車は、イエスorはいしか返事は許されないのです。私はテスト項目をチェックしました。なんかめちゃくちゃ多い。テスト項目のエクセルファイルには、無数のページと終わらないスクロールバーが無言で私を見つめていました。何件あるのコレ?

そこで私は気づきました。このテスト項目、私がこの前作ったやつじゃん。エクセルファイルの製作者、私の名前になってるじゃん。

ボーッとした頭でしばらく前の記憶を辿ります。あれ、これってたしか…いやそんなまさか…いやいやいや…絶望感がジワジワと背中から這い上がってきました。

このテスト、1000件超えてなかったっけ?

マウスを握る手が冷や汗をかきはじめました。数百件がバーッと終わる自動テストならまだしも、これは1件ずつ条件を変えて行う手動テストです。試しに1件やってみました。30分かかりました。もう1件やってみました。やっぱり30分かかりました。

物理法則を考える

1000件を3日で終わらせる。つまり1日あたり約333件のテストを実施する必要がある。テスト1件は30分。333件のテストを終わらせるのに必要な時間は、約167時間。

さてここで問題です。1日は何時間でしょう?

歯車「すみません、このテスト1件あたり30分かかるんで、3日じゃ無理です」

上司「え?慣れてくればスピード上がるでしょ」

歯車「いや、全部条件違うんで慣れるとかないです」

上司「スピードアップ前提でスケジュール組んでるから、それでよろしく。いいね?」

歯車「イエス」

転がる歯車

ここで私は財布を持って席を立ちました。ちょっとコンビニ行ってきますのノリです。しかし向かった先はオフィスから徒歩1分のところにあるかかりつけのメンタルクリニックでした。

歯車「とにかく今すぐ診断書をください」

医者「オッケー!」

普通、診断書というのは何週間も待たされるものなのですが、このクリニックは開業したばかりで先生も暇だったのか、速攻で診断書が出てきました。

歯車は転がるように会社に戻り、そのまま人事部へと飛び込みました。

歯車「休職届ください」

私は必要書類を人事に叩きつけると、その日は何もかも放棄して定時で帰宅しました。

察しがいい方はもうおわかりであろう……そう!

歯車は、翌日付けで休職したのである!

逆転サヨナラ満塁ホームランで打ち返し!

上司から投げられた1000件のテストはホームランで打ち返し!ざまあみろ1日は24時間だよ!!1日を167時間にしたかったら宇宙にロケットを飛ばして光速に近づきな!!アインシュタインの相対性理論から学んでこい!!

休職者がやるべきことは、人事への通院報告兼生存確認のメールのみです。それだけなのであります。決まっているのであります。

よって、歯車は回るのをやめてお布団の中でぬくぬくと体調回復に努めました。スマホが鳴ります。うるさいから通知を切ります。電話がなります。うるさいから電源を切ります。

その後、わりとすぐに退職したので1000件のテストがどうなったのか私は知りません。ただ、風の噂で同じプロジェクトの若手社員が全員辞めたと聞きました。

まぁ、アインシュタインの相対性理論を理解した上でロケットを飛ばし光速に近づいて時間の流れを遅くした中で作業をさせ1日を167時間相当にできない上司は、スケジュールの遅れをどうすることもできないでしょう。

1日は……

私がホームランを打った日…それはある年の誕生日のことでした。通知音すら許されないメールの嵐と、スマホが「この電話は現在電波の届かないところにあるか、電源が…」と延々応対し続けているであろう事実が、最高の誕生日プレゼント。

1日は24時間。よくおぼえておいてくださいね。もし忘れてしまったら、恐ろしい出来事があなたを襲うかもしれませんよ…